漫画とか

漫画の感想などを書いていきます。よろしくお願いします。

私的漫画オールタイムベスト10・A面

どうもこんにちは。今回は「私的漫画オールタイムベスト10を選んでみよう」という企画なんですが、実はこれ昔から何度も何度も手を付けては必ず挫折してきた試みなんですね。ツイッターハッシュタグはてなの合同企画なんかで見かけるたびに自分もやってみっかーという気持ちにはなるんですけど、どうしても選びきれない。

しかし今こそそんな優柔不断な過去の自分と決別すべく、また年齢も四十を越え、この先自分にとって重要な作品と出会う確率が低くなった(こういうのは若いころに衝撃を受けた作品以外あまり選ばないですよね)ことで「もうそろそろ〈心の10本〉、決めておくべきか? ちょうどブログも再開したことだし」と思い立ち、意気込んで筆を執ってはみたものの結論から申しますとまたしても選びきれませんでした。もう全漫画作品同条件のもとで10本に絞るのは不可能だと身にしみてわかったので、いくつかの縛りを設けてオールタイムベスト10でもなんでもないものをギリギリひり出してお茶を濁そうと思います。とりあえずでっち上げた条件はこんな感じです。

 

 

【一作家一作品】

これは普通にやってる人多いですね。原作も作画ももちろん同じです。

 

【完結作品のみ対象】

これも普通の条件だと思いますが、個人的にはここで『キン肉マン』が外れるのがつらい。あとこの記事を書いている今現在2021年4月4日なのですが、4月9日に『進撃の巨人』が完結するんですよね…… ギリギリ10本に入るか入らないかという作品なのでちょっと待ってみる手もありましたが……

 

【麻雀漫画は除外】

麻雀漫画を含めるべきでない理由はまったくないんですけど、こうでもしないと絶対に選べないことがわかりました。麻雀漫画は麻雀漫画で別に10本選ぼうと思います。

 

【A面とB面に分けた】

これが一番よくわからないというかこの時点でベスト10でもなんでもなくなってるんですけど、こうすることでようやく10本選ぶことができました(選べてない)。分け方に明確な基準や理由はないので、なんとなくニュアンスで感じていただければ幸いです。たぶん伝わると思います。今回の記事はとりあえずA面だけになりますね。

 

 

 

私的漫画オールタイムベスト10・A面

  1. あしたのジョー
  2. バイオレンスジャック
  3. 花の慶次
  4. がんばれ元気
  5. エスパー魔美
  6. 野球狂の詩
  7. わたしは真悟
  8. ハード&ルーズ
  9. 柔道部物語
  10. 闘将!!拉麺男

 

こんな感じです。順位はあまり関係なく10本をただ並べたつもりでしたが、改めて眺めてみたらなんだか順位ぽく思えてきたのでいちおう番号を振りました。以下、極力ネタバレなしで一作ずつ軽めに紹介していきます。

 

 

 『あしたのジョー』を知らない日本人はいないでしょう。内容の説明は不要ですね。

ド定番の名作、いわゆるマスターピースと称される漫画作品に初めて触れる際にはまず「構えて」しまう習性が個人的にありまして、そのせいかあまり響かなかった刺さらなかった、フラットな状態で読めばまた違う結果になったのではないかというモヤついた感情が生まれてしまった経験が数多くあるのですが、この『あしたのジョー』に関しては構えに構えまくりつつ鑑賞に臨んだにもかかわらず見事眼球に命中、頭蓋骨を引き裂いて僕の胸になんちゃらする最高の読書体験になりましたね。カジ・センセ、人生のストーリーは一生じゃ足りないよな。

これは関連作品をほぼ読みつくした現在だから言えることなんですが、梶原一騎という人は反社すれすれのおっかねえ人物でありながらも心の中に「聖性」、いわゆるholinessとしか形容しようのない美しい領域を抱え続けた稀有なやさぐれ作家でした。その特異性は他の梶原作品においては高級ステーキにほんの一滴垂らした醤油のごとき絶妙な隠し味として機能してきましたが、それがちばてつやというこれまた類を見ない聖性増幅装置によって天元突破の量にまで達した結果、誰の目にも見えるかたちで表れたのが『あしたのジョー』という奇跡だったのではないかと思っています。

 

cycloneさんのツイートに面白いものがあったので引用させていただきます。生前の梶原は『あしたのジョー』について、著作者のひとりでありながらどこか他人事のような発言をすることが多かったのですが、おそらく自分自身のなかに宿る聖性についてあまり自覚的ではなかったのでしょう。それゆえ『あしたのジョー』から放たれるまぶしすぎるほどの美しさは、全てちばてつやから生まれたものだと認識していたのかもしれません。しかし梶原一騎小池一夫がこんな話をしていたというだけでもかなり面白いですね。

 

 

バイオレンスジャック』(以下VJ)とは漫画でありながら神話であり、世の一般的な商業漫画作品とは一線を画す「叙事詩的漫画作品」とでも呼ばれるべき壮大な物語です。私の知るかぎり叙事詩的な側面をもつ漫画作品はほかにプロ野球編以降をも含むすべてのドカベンシリーズ、通称「ドカベン・サーガ」のみですが、これについては語りたい内容が山ほどあるのでまたの機会に妄言を垂れ流させていただきます。

 平和な日本を突如として襲った大震災、通称「関東地獄地震」によって都市機能を失い完全に崩壊した関東地区。日本でありながら日本でない特区と化したこの場所を舞台に繰り広げられる暴力! レイプ! 殺人! そしてこの狂った土地においてあくまで人間であり続けようとする、強き人々の記録! というのがVJのおおまかな内容です。この世界観をオマージュした作品に映画『マッドマックス』シリーズや平松伸二ブラックエンジェルズ』8枚の金貨編などがありますね。そういえばVJの関東地獄地震マグニチュード8.9なんですが、実際に起こった東日本大震災マグニチュード9.0~9.1だったのを知ったときは「もう終わりだ」と心から思いました。動物異変も現実にバシバシ起こってたし。

有名どころからマイナーなものまで数々の永井豪キャラがゲスト的に出演する、永井豪の集大成的な側面もVJには存在します。しかし元ネタとなった作品を知っておく必要はほぼありません。そういう内容になっています。しかし『デビルマン』だけは読んでおいたほうがいいかもしれません。『デビルマン』を読んでおいたほうが楽しめるという意味ではなく、作中に『デビルマン』のネタバレがあるからです。

章仕立てになっており、どの章も異なる味わいがあったりするので「一番好きな章」という議題で盛り上がれる作品でもありますね。ちなみに私はいまだに決められてません…… これもそろそろ決めなくては……

 

 

 

 いわゆる小説コミカライズの最高峰であり、漫画史上最もカッコいい男の活躍が読めるのが『花の慶次』です。歴史の表には名を残していないものの、実は戦国の世にこんな凄い男がいたんだよというディスカバー・ニューヒーローものですが、今日においてはこの作品によって前田慶次郎利益はむしろ有名な戦国人のひとりとなりましたね。光栄(現・コーエーテクモ)の歴史ゲームにおいても、そもそも登場すらしていなかったところが『花の慶次』連載開始以降は急にトップクラスの武将として扱われ始めています。最近の事情はわかりませんが、聞きかじった話では宮下英樹センゴク』のヒットにより、やはり同じような現象が起きているそうですが。

基本的に「慶次カッコいい」だけですべて語りつくせるほど主人公の完成度が高く、またブレない作品ですが、時に少年漫画というジャンルの範疇を超えた、文学的芳香すら漂う深みのあるエピソードが挿入されることが実は最大の魅力だと思っています。秀吉を殺そうとするくだりには当時大変な衝撃を受けましたね。カッコいい方面だとやはり佐渡攻めが大のお気に入りです。佐渡攻めだけは好きすぎて何度読んでも変わらぬ量の脳汁がもうビッシャビシャに出ます。あと個人的には世の中における琉球編の評価が低すぎることにあまり納得が行ってません。なんだか『北斗の拳』の終盤みたいな扱いをされがちな傾向にないですか? さすがに琉球編よりは風魔小太郎編のほうが迷走してるぐらいだと思うのですが……

 

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慶次以外で一番好きなキャラクターは骨です。「どうぞお殺しください」の顔とセリフがあまりにも好きすぎるのでどうしても見てほしくて貼ってしまいました。

 

 

 

 亜空間殺法で一世を風靡した麻雀プロ、安藤満が大事な対局の前日に必ず読み返していたことで知られる『がんばれ元気』です。私も影響されてマネしていた時期がありましたが、電子書籍がまだ一般的ではない時代に全28巻を常備することはかなり難しかったですね。ちなみに片山まさゆき『牌賊!オカルティ』の主人公である朧夏月は対局の直前に必ず何切る本を読んでいましたが「お前そういうとこだぞ」と思わず言いたくなりましたよ。麻雀の前に何切る本読んでるやつが勝てるわけないだろうが。一流プロは『がんばれ元気』を読んでいる。この現実よ。

話がそれましたが、ボクシング漫画がベスト10に2本も入ってしまいました。こういう気持ち悪さが嫌で最初は「同一ジャンルは1本まで」という縛りも設けて考えていたのですが、やはり『あしたのジョー』と『がんばれ元気』のどちらかが外れることは考えられないのでこのような運びとなりました。つまり私にとってはそれほどの作品だということです。本当にすべての試合が大好きなのですが(岡村とのタイマンも含む)、フェイバリットはベタですがやはりのぼる戦、次点で関拳児戦という感じです。ちなみに石渡治『B.B』も、このベスト10にギリギリ入ってこないくらいのレベルで好きです。ボクシング漫画ってなぜか漫画ジャンルの中でも少し特別というか「わりと特殊な題材だし本数自体も多いわけではないのになぜか傑作が多いよなー」という印象があるんですが、もしかしたら逆に『あしたのジョー』という傑出した作品が、ボクシング漫画というジャンルそのものを「漫画ジャンルの聖域」たらしめたのかもしれません。

『がんばれ元気』が『あしたのジョー』へのカウンターとして描かれたことはよく知られていますが、そのこと自体にあまり意味はないと思います。ジョー以降、ジョーを意識せずに描かれたボクシング漫画などただの一本も存在しないのですから。

 

 

 

 「主人公がヌードモデル。しかも描くのは画家である実の父」という狂った設定でおなじみの『エスパー魔美』です。とはいえ小学生のころに出会った作品ですから、これはヤバいとかエロいみたいな感覚は一切ないまま読んでましたけどね。エロさを感じた藤子・F・不二雄作品は『みどりの守り神』くらいのものですが(大体どのシーンかわかってもらえると思います)、あれ誰か実写化してくれませんかね。一番好きなSF短編でもあるので。

ところで『エスパー魔美』といえば前述のすごい設定や「尿を他人の膀胱に部分テレポートさせて尿意を解消」などの衝撃シーンがとにかく強烈な作品ですが、内容もまた藤子・F・不二雄印のあんしん児童向け漫画というよりはむしろSF短編シリーズにかなり近い、人の本質に踏み込んだ描写とぬるくない結末による重厚なものに仕上がっています。ゆえに藤子・F・不二雄の最高傑作とする声も高く私もおおいに賛同するところではありますが、ベスト10に入れた理由はとにかく高畑さんのことが大好きだからです。正直、前田慶次と同じくらいカッコいいと思うんですよ。漫画キャラクターカッコいいランキングを作るとするならこのふたりが確実にツートップですね。

名エピソード『サマー・ドッグ』のラストにおける「今朝の新聞です。すみません」というセリフは、高畑さんの高潔な人格をよく表しています。持ち主であるマミ父にこっそり新聞を燃やしているところを見つかったわけですから、漫画の場面としては「こ、これは何でもないんです」みたいなノリでごまかすほうが普通かつ自然でしょう。しかしながらマミに見せるべきではない情報が書かれた新聞を処分するという行動自体は間違っていないと信じ、また生来のウソがつけない性格から堂々と「今朝の新聞です」とごまかさずに答え、行動の是非とは別に新聞の持ち主に対する非礼は非礼として「すみません」と謝罪する。高畑さんとはそういう男です。『サマー・ドッグ』自体が作品自体を代表するほどの素晴らしいエピであり、また全編において高畑さんが大活躍する内容であるだけにこのラストには強烈に心を掴まれたんですよね。

これ以外にも赤太郎との対決など高畑さんが良すぎる話はいくつもありますが、マミがチャラ男に口説かれかけたときのめちゃくちゃカッコ悪い高畑さんも本当に大好きです。「カッコ悪いことがカッコいい」みたいな鼻につく漫画の量産が目にあまる昨今ですが、このときの高畑さんを見てちょっとは学べよと言いたいですね。「逆にカッコいい」ってああいうことですからね。

 

 

 水島新司先生のことは心から尊敬していますが、最初から最後まで充実した、隙のない作品となると意外に少ないとも思っています。もちろん「完成度が高いこと」はベスト10入りの絶対条件ではありませんが、この『野球狂の詩』は私が最も愛した水島作品であると同時に、氏の最高傑作でもあると自信を持って言える内容なんです。

野球狂の詩』は大きく分けて1部と2部というか、すべてのエピソードが1話完結だった時代と、水原勇気が据え置き主人公となったいわば「水原勇気編」のふたつから成っています。初の女性プロ野球選手の誕生を描き、社会現象にまでなった水原勇気編ももちろん大好きなのですが、特別な思い入れがあるのはやはり1話完結時代ですね。今更ですがよくもまあ、野球だけを題材にこんなにも多様性のある話が作れるものですよ。しかも似たような内容など存在せず、補欠選手や控え選手、あて馬専門や選球眼だけの選手、さらには公式記録員や審判などこれまで誰も描こうとしなかった野球人たちにスポットを当て、その全てが1本の映画のように美しい。水島新司という唯一無二の才能、その全盛時を存分に堪能できる名作中の名作といえると思います。こののちに訪れる(作家としての)壮年期も、味わい深き熟年期も個人的には大好きなのですが、やはり作品としてもっとも充実していたのはこの『野球狂の詩』を著した時期でしょうね。

マイフェイバリットはやはり日日山井の『熱球白虎隊』、次いで『狼の恋』か『メッツ買います』あたりですかね。本当は『ミス・ジャッジ』がダントツで好きなんですけど、残念ながら『野球狂の詩』本編ではないんですよね…… アニメの最終回もこれの改変だったんですが……

 

 

 

わたしは真悟(1) (ビッグコミックス)

わたしは真悟(1) (ビッグコミックス)

 

  『わたしは真悟』と『漂流教室』のどちらを選ぶかは本当にギリギリまで迷いました。至高のホラーエンターテイメントであり、楳図かずおの長編の中では最高級の完成度と知名度を誇る『漂流教室』か、難解かつアート寄りの内容ゆえに読み手を選ぶが類似作品すら思いつかないほどの独自性を誇り、比類なき読書体験を提供してくれる世紀の怪作『わたしは真悟』か。よほど2本とも入れてしまおうと思いましたが、それをアリにしてしまうとルール自体が変わってしまい他の部分もまた一から選びなおさなくてはならないため、断腸の思いで『わたしは真悟』のほうを選ぶことにしました。決め手は今回このベスト10を作るにあたって両作をあらためて読み直してみたところ、より強く心を揺さぶられたのが『わたしは真悟』であったという程度のことです。その日の気分や体調で変わった可能性も高いでしょう。

おおまかな内容を説明することすらも若干のネタバレにつながるタイプの作品なので、ここでは「『小さな恋のメロディ』を彷彿とさせる小学生同士のピュアな恋愛がやがて思わぬ方向へ……」程度の雑な解説にとどめておきます。タイトルの意味もできれば実際に読んで知ってほしい。ということは、ここに書くべきことはもうありませんね。そういえば綾辻行人は楳図を神と崇め、『わたしは真悟』は1ページ目から涙しながら読むそうですが、それが大げさと思えないほど開幕から別世界に連れて行ってくれる作品であることは保証しますよ。とにかく初回から「これは普通の漫画じゃない」というオーラがビッシビシと出まくってますからね。

 

ちなみに今なら(2021年4月8日現在)kindle版が期間限定で無料です! 3巻まで! タイミング最高!

 

 

 

ハード&ルーズ 1巻

ハード&ルーズ 1巻

 

 狩撫麻礼原作作品に関しては別枠扱いにして「狩撫オールタイムベスト」的なものを作る予定だったのですが、熟考に熟考を重ねた結果、ナンバーワンがわりと揺るがない感じだったので『ハード&ルーズ』をこちらのベスト10に入れたほうが自然だと判断しました。作画があのかわぐちかいじということもあり、堂々のA面。なんか「オレは普通のファンとは一味違うぜ」アピールみたいになるので言うの本当に嫌なんですけど、狩撫イズムの代名詞的作品といわれる『迷走王ボーダー』はそこまで好きじゃないんですよ。もちろん好きは好きなんですけどそんなでもないというか。『ナックルウォーズ』や『バッドブラッド』あたりの小品のほうが全然好きなぐらいなんですね。迷ったのはむしろ『LIVE!オデッセイ』です。オデッセイは本当に最高ですよ。ボーダーがそんなに好きじゃない理由もいずれ書こうと思います。

さて従来は人格破綻者、あるいは一般的な損得や価値から解放された人格完成者のような人物をメインに描くことが多かった狩撫麻礼ですが、この『ハード&ルーズ』の主人公である土岐正造はどちらかといえばわれわれ一般人が共感できる余地を数多く抱えた、いわば俗人的なキャラクターとして描かれています。もちろん狩撫イズムをなみなみと注入された人格造形ではあるのですが、蜂須賀やオデッセイのような「狩撫イズムを体現する存在」とは若干異なる「自分自身が理想とする価値観を体現するのに必死で、たまに間違えたりもする」そんな性格です。つまり私のような「狩撫イズムに影響されまくり、そのように生きたいとうわべだけで思っている人間」にとっては非常に感情移入しやすいわけです。実際のところ狩撫本人は意外なほど気さくな性格で、酒とカラオケと歌謡曲をこよなく愛する下町のおっちゃん的な雰囲気の持ち主だったという証言もあるため、もしかしたら土岐正造は狩撫自身にかなり近いキャラクターだったのかもしれませんね。

1話完結ものとしての切れ味も抜群で、ナンバーワン狩撫作品に選んだ理由はむしろこちらのほうが強いかもしれません。その到達度は自己模倣作品である『リバースエッジ 大川端探偵社 』が全くもって及びもつかないほどのものでした(ちなみに私は晩年の狩撫作品についてかなり否定的です)。おそらくはあの時期の狩撫の感性に、かわぐちかいじの作画が合わさることで初めて生まれた奇跡的な作品であったのでしょう。マイフェイバリットは『蜜の味〈TASTE OF HONEY〉』。詩人の依頼で餃子を探す話です。いまだにこれを超える短編漫画作品に出会っていません。

 

 

 

 面白さ全一漫画こと『柔道部物語』です。笑いあり感動あり熱血あり、しかもスポーツフィクションとしての完成度も最高峰。柔道シーンの作画、失神するほど凄いですよね。同時期に描かれた柔道漫画である『YAWARA!』もかなり影響を受けていたのではないでしょうか(なんか途中から作画が似てくるのをリアルタイムでひしひしと感じてたんですよ)。たまに投げられたほうの視点で描かれてるやつがありますが、読むだけで実際に投げられたような気分になります。板垣恵介もたまに同じことやってますが、模倣だとしたら相当いいところに目をつけましたよね。あの男は人の技を盗んで自分のものにするのがうますぎる。梶原流とか車田正美流とか、おそらくはゆで流も。バキみたいなやつですよ本当に。

面白さ全一というのはあながち適当に言ったわけでもなくて、単純な面白さだけで選ぶならこれが1位ですね。しかもあくまで王道のストーリーでありながら、類型を絶妙に外してくるあの感じがたまらない。三五がスランプから立ち直るくだりなんてまさしく天才・小林まこと一流の腕っぷしといったところで、この作品を象徴する素晴らしい場面だと思います。地味なところでは三五たちが1年生のときの3年生、斎藤さんたち世代の描き方とかかなり好きですね。あんなオッサンみたいな高校生は柔道部といえどもそうそういないんですが、1年坊から見た最上級生って本当にあんな感じだったりしますよね。怖いしめちゃくちゃ強いんだけど、2年生よりはちょっと優しい。そんな上級生ならではの存在感の表現が絶妙でした。

ところで私と『柔道部物語』との出会いなんですが、小学生のころ柔道をやっていた私に読ませようと思って母が自分で選んで買ってきたんですよ。母が漫画を選んでくれたのはこれ1回きりだと記憶していますが、マジで母のセンス凄くないですか?

 

 

 

闘将!! 拉麺男 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)
 

 読む幻覚剤こと『闘将!!拉麺男(たたかえ!ラーメンマン)』です。しょっぱなから作品とはあまり関係ない話をしますが、怒らせ方シリーズやうんこドリルの作者であり、昨年のクリスマスに一夜限りの復活を遂げたノリアキのプロデューサーとしても知られる古屋雄作という人がいるんですね。その古屋氏がかつて残した「闘将!!拉麺男はサイケ」という発言があまりにもビシキマかつ芯を食った形容だったので、完全に影響された私は以来『闘将!!拉麺男』の話になるとこの「読む幻覚剤」というフレーズを好んで使っています。

お察しの方も多いとは思いますが、この枠はルール「完結作品のみ対象」によってオールタイムベスト入りを果たせなかった『キン肉マン』の代替的な意味合いが少なからずあります。『キン肉マン』は完結さえすればベスト10入りがほぼ決まっている作品であり(七三太郎&川三番地『Dreams』のように作品そのものを台無しにする最終回を迎えたり、これから数年にわたって死ぬほどつまらない内容が続いてそのまま終わったりしたら話は別ですが)、そうなればルール「一作家一作品」により『闘将!!拉麺男』は確実に除外されるわけですからね。しかしながら『キン肉マン』~『闘将!!拉麺男』の系譜は個人的に重要すぎる漫画体験であるため私的位置づけにおいては大きな差がなく、ゆえに2021年4月現在、完結しているすべての漫画作品の中から『闘将!!拉麺男』をマイベスト10に選ぶことは不誠実にあたらないが、かといって『キン肉マン』と『闘将!!拉麺男』を完全に切り離してシレっと「これが私の漫画オールタイムベスト10です」とやるのも違和感があったため、こうしてどこにもいない誰かに対して謎の何かを言い訳するような意味のわからない文章を長々とかくはめになっています。要するに『闘将!!拉麺男』は最高ってことだよ。

話がそれましたが、「読む幻覚剤」および「『闘将!!拉麺男』はサイケ」については少し説明が必要かもしれません。サイケとはすなわちサイケデリック、一般的には幻覚剤によって見ることができる狂った色彩の幻覚および歪んだ五感によってもたらされる特殊な感覚そのものを総じて形容した言葉であり、同様の効果を狙った、あるいは幻覚剤体験そのものを再現するかたちで制作された美術や音楽を特に「サイケデリック・アート」「サイケデリック・ミュージック」と呼んだりします。要するにサイケとは幻覚剤の疑似体験のことであり、つまり「『闘将!!拉麺男』はサイケ」とは「拉麺男を読んでるとLSDキメてるみてえな気分になるよ」という意味だと思われますが、これが当時の私にとってはまさしく「我が意を得たり」の発言だったんですよ。うすうす感じつつもうまく言葉にできず、常に自分の中でモヤモヤし続けていた『キン肉マン』ともまた異なる『闘将!!拉麺男』という作品の特異性を、一言で見事に言い表してもらえたときの感動は今でも忘れることができません。

闘将!!拉麺男』とはそれほどまでに幻覚的な、悪い夢のような作品なんですよ。とにかく通常の漫画文法においてはありえない展開が猛スピードで次々と起こるため、続けて読むとすさまじいドライヴ感に襲われるんですがそれが決して気持ちのいいものではなくてですね。どちらかというと気持ちよくなれるタイプの『キン肉マン』とは違い、数日の間体調が悪くなるような、悪質の疲労を読後にもたらす稀有な作品が『闘将!!拉麺男』です。そのあたりがまさにサイケなんですが、これを「サイケデリック漫画」と呼ぶにはちょっと違うのではないかという感覚も同時にありまして、私個人といたしましては「読む幻覚剤」というフレーズを推していきたい所存ではあります。「サイケデリック漫画」っていうと福山庸治の『臥夢螺館』とか、松本大洋の『鉄コン筋クリート』みたいなやつのほうが多分しっくりくる感じじゃないですかね。あまりにも感覚的すぎる話ではありますが。

あとあまり言われているのを見たことがないんですが、個人的には「子供のころかなり怖い漫画だった」というのがあります。いや本当に。実はかなりグロい漫画でもあるんですけどそこは現実感のなさからあまり響かなくて、それよりも武器男(ブギーマン)の作り方とか不死身胴白龍の断頭瓶とか、水を入れ続けないと反対側に配置された子供たちが死んでしまう天秤とかかなぜか怖くてしょうがなかったんですよ。「キン肉マンの作者が描いた漫画を本気で怖がってる」と思われるのが恥ずかしくて、当時は誰にも言えませんでしたが。あと筋肉拳蛮暴狼の急所にラーメンマンの手刀がズズズッとゆっくり入っていくところとか玉王が独占してる赤ん坊の形をしたキノコとか村人が石化していく感じとか、なんとなく怖かった場面をあげればキリがないくらいです。こればっかりは本当に信用してもらえないと思いますが、砲岩が何回死んでも理由なく生き返ってくるのもちょっと怖かったですね。

 

 

 

めちゃくちゃ長くなりましたが、とりあえずこんな感じです。総括とかは特にありません。今は選べただけで大満足という気分ですわ。次回はB面と、麻雀漫画版オールタイムベスト10を書く予定なのでまたよろしくお願いいたします。