漫画とか

漫画の感想などを書いていきます。よろしくお願いします。

史上最もイヤ~な野球漫画『ショー☆バン』

 

 

www.amazon.c

どうもこんにちは。十数年ぶりに『ショー☆バン』を読み返したところ、とても一言二言や140字制限でおなじみ「言論の監獄」ことなんちゃらッターでは語りつくすことのできない複雑怪奇な情感のさんざめきに襲われたので発作的に漫画感想ブログを立ち上げることにしました。絶対に長続きしませんが当面の間よろしくお願いいたします。ちなみに記事内では『ショー☆バン』本編のネタバレをガンガンやってるので未読の方はご注意ください。

 

 

ショー☆バン』はいわゆるゼロ年代初頭から末期にかけて週刊少年チャンピオン誌上にて連載された作品で、中学生の軟式野球という題材に誰もが期待するカタルシス要素を極限まで削り取った挑戦的な内容が一部で話題となりました。

一例をあげると、野球漫画なのにフェンスオーバーのホームランがほとんど出ないというのがあります。ちゃんと数えてませんが作中を通じて3~4本ぐらいではないでしょうか。実際の軟式野球ではビヨンドマックスでも使わなきゃ柵越えなんてめったに出ない、ましてや中学生をやなんてことは言われなくてもわかってるけどこれ少年漫画ですからね。さすがに漫画的見栄えを優先したほうがよさそうでしょ。ちばあきおの『キャプテン』だってガンガン柵越え出てたけど(丸井ですら打ってる)、そのことで作品のリアリティが損なわれてつまらなくなったとかは一切なかったわけじゃないですか。

しかし『ショー☆バン』はそうでない道を選んだ作品です。端的に言うとこれは「フィクションラインをかなりリアル寄りのところに設定した野球漫画」で、実際のところその試み自体は相当高いレベルで成功していたりするのですが、残念なことに話はそれで終わらなかった。

ショー☆バン』の作中から漫画的見栄え以上に、それはそれはもう驚くほど念入りに取り除かれている快楽要素があります。「爽やかさ」です。断じて言いますが、全33巻の長編であるこの作品に爽やかな瞬間など一瞬たりともありません。「感動」もほとんどないですね。ラストはいちおう日本一になるのですが完全に「終わるための優勝」という感じで、1ミリの感動も爽快感もないんですよ。スポーツ漫画は基本的に優勝すれば終われますからね。主人公の中学野球生活を1年の入部時から3年最後の大会における全国優勝まできっちり描ききったにもかかわらず、一部で「終わり方がひどい」とまで言われる漫画は逆にすごいと思います。そういえば数十年にわたる長期連載の中で数々の終了フラグをことごとくスルーし続け、最終的に何もないところで突然終わった『あぶさん』のラストはあたかも「不老不死の能力によって数多の危機を乗り越えてきたが、その効果が切れたため突然死んだ超人」のようでしたね。ぜんぜん『ショー☆バン』と関係ない話ですが。

話がちょっとそれましたが、なぜ『ショー☆バン』という作品に爽やかさが皆無なのかというと、基本的にイヤな奴と弱腰でウジウジした奴と変な奴しか出てこないからです。しかしながらどのキャラクターも漫画的な誇張された性格ではなく、なんとなく既視感があるような身近にいる(いた)ような、これまた野球描写同様に現実感こそあれど面白みに欠ける連中ばかり。それゆえ織りなす人間ドラマはリアルかつ濃密で引き込まれる部分は多々あるものの、あまりにも現実的すぎてとにかく気が滅入るんですよ。

よく言われる「主人公の性格が悪い」という点に関しては、正直そこまででもないかなと感じました。バキや『天牌』の沖本瞬といったその筋の大御所と比べたらだいぶマシとすら思いますね。ただ「イヤな奴の存在と言動」によって周囲の人々が被る迷惑や発生する感情の描写がいちいち過剰なほどリアルなので、チームに問題が起こるたびにとにかく身につまされるというか胃が痛くなるというか。こんなふうに読んでてイヤ~な気持ちになる野球漫画は柳沢きみおの『男の自画像』と『ショー☆バン』ぐらいじゃないですかね? ちなみに微差で『ショー☆バン』が勝ってると思います。つまり野球漫画史上最イヤ作品です。

 

印象に残るイヤ~な場面はそれこそ山のようにありますが、文句なしに「これが最強だろ…」と思えたものをひとつ紹介します。後半に登場する杉本というキャラクターがいます。札つきの不良で野球のスタイルは豪腕豪打という『ショー☆バン』のキャラにしては珍しいほど漫画的な特徴を持っており、実際に彼の加入によって作品の野球的見栄えはかなり上がるのですが、こいつがとにかく怖いんですよ。

 

 

f:id:dreamkobayasi:20210403111203j:plain

からしてもうなんか怖い。「怖い奴」「ヤバい奴」的な漫画的記号がまったく入ってないところが逆に怖いです。

 

杉本は主人公のショーバンこと小沢番太郎の独断によって一度は退部に追い込まれるのですが、紆余曲折あってふたたび野球部に戻ってきます。そのさい彼とは別件ながらもやはりショーバンとの対立によって野球部を離れていた二人の元部員とともに「三人でショーバンを一発ずつ殴る」といういかにもスポ根的な復帰と和解のための儀式を執り行うのですが、この場面が本当に異常なんです。

 

 

f:id:dreamkobayasi:20210403114030j:plain

f:id:dreamkobayasi:20210403114057j:plain

突然のルール変更を押し付ける杉本。他の二人は普通に殴って終わったのに。ショーバンもびっくりしています。返事を聞く前に二発目を打っているところも本当に怖い。

 

 

f:id:dreamkobayasi:20210403115632j:plain

f:id:dreamkobayasi:20210403114756p:plain

「軽い打撃を何発も入れる」という行為は、攻撃というよりも拷問の意味合いが強いです。完全に反社のやり口ですね。北方謙三の小説によく出てくる、砂の入った靴下で頭を延々と殴るやつを思い出しました。20分程度で誰でも発狂するらしいですよ。それにしてもバックに空と雲のコマ、あまりにも怖いですね。

 

f:id:dreamkobayasi:20210403120247j:plain

そのままマウントをとってボコボコに。そりゃ「あ」としか言えないよな。

 

 

f:id:dreamkobayasi:20210403120356j:plain

しかも和解の儀式だったはずが、意識を失ったショーバンを放置してそのまま帰ります。このコマは他の二人の顔もなんか怖いんだよな。

 

本編を読んでもらえるとわかると思うんですけど、この「ショー…バン!」のくだりは不要といったらおかしいかもしれませんが(そんなこと言い始めたら全部そうなので)物語の流れからは完全に浮いており、全編の中でも特に異常な雰囲気が漂っているんですよ。野球部に復帰したあとの杉本は不良としての特性を残しつつも暴走するショーバンを諫めたり、チームメイトとしてフォローしたりもする「頼れる仲間」と化すんですけど、彼が活躍するたびにどうしてもこの場面が頭をよぎり「でもこいつヤバい奴なんだよな…」と真顔にさせられしまうほどです。

この「ショー…バン!」はほんの一例にすぎません。とにかくこの作品には「本筋とあまり関係ないにもかかわらず、ひたすらイヤ~な気分にさせられる」場面が他にもかなり多いんですよ。しかしそれが不快かというと実は全然そんなことなくて、まあイヤ~な気分になるけど不快じゃないというのもおかしな話ではありますが、妙にクセになる面白い野球漫画であることだけは保証します。同時期にやはりリアル路線を展開して成功し「これまでにない野球漫画」と称された『おおきく振りかぶって』と比べても遜色ないほどに、野球部分の描写が本格的かつ誠実という明確にすぐれた一面もありますしね。どちらも少年たちが活躍するリアル路線の野球漫画ということで間違えやすいと思いますが、チームのキャプテンをニヤつきながらショートフックでボコボコにするキャラクターが出てくるのが『ショー☆バン』、出てこないのがおお振りと覚えれば完璧です。光のおお振り、闇のショーバン。杉本君がいてくれて本当によかった。なんかもっと書きたいことがあった気がしますがとりあえず今回はこんな感じで終わります。次回があればまたよろしくお願いします。